ファンベース
著者:佐藤 尚之
出版社:筑摩書房(2018/2/6)
形式:新書(¥968)、Kindle(¥825)
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本
佐藤尚之さんの著書「ファンベース」を読みました。ファンを大切にして身内のような関係を築くことで、商品やサービスを主観的になりすぎずにより良いものにし、結果として社会に良い影響を波及させることができるという内容の一冊。
各章ごとのあらすじと感想を紹介していきます。
企業がプロダクトの宣伝やキャンペーンでその時々の施策(キャンペーンやCM、広告など)を展開する例から、瞬間風速的に関心を集めつつもすぐに忘れ去られてしまうことの非効率性を解説。
支持を集められる土台作り(製品作り)をしてから施策を打っていかないと、人々の支持を集めることは難しいという根本的な部分から入る。
まずはよくある広告の失敗例を、恋愛のアプローチを喩えに解説されていて分かりやすかった。
たしかにその時々で「新しい商品が出たよ!」「この商品、こんなに素晴らしくなりました!」とアピールされても、時間軸では点と点になっていて思い入れがないことが多く、すぐに忘れてしまう。
反対に、日常的に使っているようなものであれば覚えていたり、あとで思い出す可能性も高そう。
この時点で、たしかに日頃から接しているものと突然登場したものではスタートラインが違ってしまうことに改めて気がついた。
なぜファンを大切にする施策「ファンベース」が大切であるかについて、日本が直面している人口減少(少子高齢化)や地域の情報格差を背景に解説。
今後も人口が減り続ける状況では新規顧客の母数も減っていくので、そこにアプローチするよりもファンとして日々商品を使ってくれる人たちのことを考え、ファンの周りにいる人たちにも届くような良いものを作っていく方が良い。
着実に人々の「支持」「好意」として積み重ねていくための方法を考えていく。
一般的な企業は商品/サービスを提供することが最大の社会貢献であることが本質であることを念頭に起きつつ、提供できる価値を広げていくための方法を考えていく。
すでに好んで使ってくれている人たちと対話し、今後も使い続けたいと思えるようなものを提供し続けることができたら理想だと思う。
言葉で「ファンを大事にしましょう」ということは簡単で薄っぺらい感じがするけれど、本書は感情論ではなくグラフを使って論理的に丁寧に話しをされていて分かりやすい。
個人的には地域ごとの情報格差が想像よりも大きいことに驚いていて、ネットをメインに展開するのみではなく、既存のメディアとも住み分ける必要があるとされているところも興味深かった。
3章からはいよいよ、ファンとなってくれた人たちを中心とした1つのコミュニティを作ることについて具体的に踏み込んでいく。
全体的にみたらファンは少数であることを前提とし、「みんなに好かれよう」ではなく「ファンになってくれたことを大切にして、関係を継続させよう」という考え方が根底に必要となる。
その上で、商品の「価値を上げる」「価値を他では代えがたいものにする」「価値の提供元(会社など)の評価を上げる」という3点にフォーカスして、「自分はやっぱりこの商品が好きだな」と思ってもらえるような関係を目指していく。
自分が日常的に使うものや、SNSで注目している人/コミュニティと照らし合わせながら読むと、非常にガッテンのいく内容。
最初はなんとなく気になっていたものでも、長く何度も触れることで思い入れができたり、自発的に誰かにお勧めしたくなったりすることがある。
これはおそらく自分だけじゃないと思う。
この章で特に印象的だったのは、「ファンは自信がない」という指摘。
実は自分も「好きだけど、周りに話すまでもないかな…」という経験があるのでその通りだと思った。
特に本はこうして今も自分のサイトで紹介してはいるものの、周りに「この本すごく良かったよ!」と話すことは滅多にない。
それは「本を薦めても押し付けがましいかな」とか「本読んでるアピールがなんかな..」みたいな気にしすぎな部分があったりするから。
それでも以前オンラインサロンに入っていたときは読書会があって、「同じ本を読んでいる人がこんなにいるんだ!」というちょっとした感動があって、そのことを思い出していた。
自分だけが好きってことは実はあまりないのかもしれなくて、ちゃんと場所があれば好きな人同士が集まって、同志のような人たちの存在が自信になるような。
そんなことを考えながら読んだ。
前章の内容からさらに踏み込んで、「ファンを中心としたコミュニティ」を持つ企業の実話を交えながら、関係者が身内のような非常に近い距離感で接していたり、思い出に残るうような施策をについて紹介していく。
登場する企業は自動車メーカーのマツダ、キャンプ用品メーカーのスノーピーク、「ネスカフェアンバサダー」で有名なネスカフェなど。
過去の実際の事例を読んでいて「ここまでやるのか」という内容で驚きの連続だった。
特にロードスターや好調なCX5で有名なマツダが、メディアよりもファンを優先して非公式の場で公式に新しい車のお披露目をした話しは「他のメーカーにできるのかな…」と思った。
自分はもちろんその場にはいなかったけど、リアルにグッとくる感触を想像することができた。
ファンを”本気”で身内のように接していくことは、生半可な形では意味がないことも理解できたと思う。
この章ではコミュニティを形づくっていくための施策の組み合わせ方について解説する。
施策は新規の方を呼び込む際に有効なものもあれば、すでにファンとなっている人を対象とするものもある。
すでに登場した短期の施策と中長期の施策を組み合わせたらどうなるか。
自分たちの組織ではどのような施策が取れそうかを想像していく。
ここまで本書を読み進めてきて、「まずは何から始めようか」と施策を考える位置付けにある本章。
ただ汎用性を意識されているからか、やや曖昧にぼやけてしまっている印象で、3章と4章の実例から自分たちにできることを考えていく方が良いように感じた。
企業のような組織内で完結せず、ファンと共創していくことは時間と手間がかかる。
でもそれは非効率なことではないし、社会的にも意味があって、なによりも価値を共有できるコミュニティにいることは楽しい。
そんなコミュニティを楽しみながら、輪を広げていきましょうという内容。
ファンはすぐにできるものではないから時間はかかる。
そしてたくさんのコミュニケーションも必要なので手間もかかる。
でもそれが何よりも楽しい体験になるように感じた。
以上が本書のポイントの抜粋と感想でした。
自分が関わってきたコミュニティや注目している人を当てはめて読み進めましたが、無意識かもしれないけど本書の内容を着実に実行して多くの人たちから支持を得てきたんだな、という腹落ちする内容だったように思います。
自分も自主的に「GRAYCODE」を運営していく中で、もっと多くの人と繋がって、より良質なプログラミングのヒントが集まる場を作っていきたいと強く感じました。
その一環として、今までは一方通行の発信でしたが「COMMU」といういわゆる掲示板を立ち上げました。
ここで、いただいたフィードバックを元に多くの方達とコミュニケーションを取る場にしていくことができたらと考えています。
本書は比較的大きな企業での実例が多い話しではありますが、ブロガーやYouTuberとして個人で活躍されている方も「支持(応援)してくれる人たちと一緒に活動していく」ということを考えることができる内容だと思います。